2009年12月30日水曜日

Miracle of the Fishes

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----- Jazz Story #15 -----

  「Miracle of the Fishes」 水城雄


「どうしてそういうことをいうわけ?」
「ラーメンとそば? うーん、ラーメンかな、やっぱ。そばとうどんと聞かれたら、躊躇なくそばって答えるんだけどね」
「どうしてなの? なんで急にそんなことをいいだすの? あたしのこと、嫌いになったの?」
「知ってるって。うまいらしいね。行ってみたいんだよね、おれも」
「そんな勝手な言い草、ないでしょう? あたしの気持ちなんかなんにも考えてないんだから。やっぱりあなたって勝手な人」
「そう、やっぱり本場で食べなきゃね。いくら讃岐って書いてあっても、あっちで食べるのとは全然違うらしいもんな。一度行ってみたいよな」
「そんなこと思ってないわよ。いつもあたしはあなたのこと考えてたじゃない。
それなのに、一方的にそんなこというなんて……ひどいわ」
「そうねえ、トンコツかなあ。いわゆるチャッチャ系ね」
「別れたくなんかない!」
「そうそう、なんでかねえ。あのコテッとした感じがだめなのかな」
「だれか好きな人でもできたの?」
「そうね、たしかに獣っぽいというか、独特のにおいはあるよね。あれがだめなのかもしれないね、女は」
「それならどうして急に別れようなんていいだすの? あたしのどこが気にいらないの? あたし、なにか悪いことした?」
「うん、でもさ、おもしろいこと聞いたよ、おれ。東北より北の地方の人は断然味噌なんだってね」
「そんなこといわれてもどうしようもないわ」
「そう、北海道系ね」
「そう、やっぱりそういう人なのね」
「やっぱり寒いからなんじゃないの。味噌スープっていうくらいだからさ。おれもまあまあ好きだな」
「好きだなんて口先だけでいってたのね。しょせん、最初から遊びだったんでしょう?」
「でも、おれはやっぱりトンコツだよな。別に九州人ってわけじゃないけどさ、男はこう、やっぱりああいうコテッとした感じのやつがさ」
「いいえ、はっきりそういって。そのほうがあたしも気が楽だもん。ねえ、そうなんでしょう?」
「あんだよ、うまい店。このあいだ見つけたんだよ」
「正直に教えてよ」
「いや、教えない。ひいきにするんだからさ」
「どうしてもっていうなら、これまでのこと、全部ケンジくんに話しちゃうからね。あなたと約束したこと、ちゃんと覚えてるんだから。全部話すわよ」
「だめだよ。だれにでも教えたら、あっという間に評判になっちゃうんだから。
経験あんだよ、おれ。人に自慢たらしく教えたばっかりに評判になっちゃって、あげくに雑誌とかテレビまで押しかけちゃってさ」
「迷惑だったのね。ごめんね、知らなかった」
「うん。それでせっかくいい店見つけたと思ったのに、ならばなきゃ食えない始末だよ。このおれがだよ。このおれが見つけた店がだよ。くやしったらありゃしねーよ」
「わかったわ。もうこれ以上は話しても無駄ね」
「うん。だから教えないの。わりーな」
「いいわ。わかった。気にしないで」
「あれ、もうこんな時間か。行くか、そろそろ」
「あたしも行くわ。じゃあね。あっ!」
「おわっ、なんだよ!」
「ごめんなさい! なんともなかったですか?」
「見りゃわかるだろう。びしょびしょだよ」
「ごめんね、うっかりバッグにひっかけちゃって」
「いいよ、もう。ただの水だからさ、乾かせばすむことだから」
「ほんとにごめんなさい」
「いいって。これからは気をつけな」
「はい」
「また会ったら、今度は水をひっかけないでくれよな」
「うん、また会ったらね……」

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