2009年10月9日金曜日

Kalimba Man

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----- MIZUKI Yuu Sound Sketch #21 -----

  「Kalimba Man」 水城雄


 もうそろそろあの日本人の女がやってくるころだろう。いや、そろそろ来てくれなきゃ困るのだ。
 ハンマーを打ちつける手を休めることなく、彼はそう考えた。
 敷石の上に自転車のスポーク。それを粗末なハンマーで叩く。
 ハンマーは彼の数少ない商売道具のひとつだ。このあいだ、取っ手を打ちこんであった楔取れて、あやうく家の屋根を壊してしまうところだった。振りあげた拍子に取っ手からすっぽ抜けた槌は、いったん空高く舞いあがり、それからまっすぐにトタン屋根の上に落ちてきた。修理は簡単だが、ボロ家の手入れは気がめいる。
 屋根は壊れなかったが、ハンマーの楔は打ち直さなきゃならなかった。
 スポークを叩いて、先端のほうを平たくする。
 適当な長さに切って、やすりをかける。
 アンバサダーホテルのゴミ置き場から妻のミリカがくすねてくるアンチョビの空缶に、開発地区のスラム街から出る廃材を加工してはめ込む。これが共鳴箱になる。
 廃材の上に長さの異なるスポークをならべ、金属で固定する。
 粗末なカリンバの出来上がりだ。いくつも作れば、なかにはけっこういい音のものもできる。十個に一個くらいはそこそこいい音がする。百個に一個くらいは素敵な響きの楽器になる。
 それにしても、なんでこんなものを日本人の女はほしがるのかと、はじめは不思議だった。
 あの女はアフリカの各地を飛びまわって、いろいろなものを買い集めているらしい。彼の作る粗末なカリンバもそのひとつだ。女は数か月おきにやってきて、いっぺんに二百個ものカリンバを買っていってくれる。一個二十五シリングにしかならないが、それでもまとめて買ってくれるので、彼も、妻のミリカも、四人の子どもも助かる。ミリカはアンバサダーホテルの客室係だが、ひと月働いても五千シリングはもらえない。
 女はあれを日本で売っているらしい。ちっぽけな店だといっていたが、いったいいくらで売っているのか。五十エン? あるいは百エン?
 パキン。パキン。パキン。
 ハンマーを叩きつけるたびに、石と、ひしゃげたスポークから耳ざわりな音が立つ。彼の額から落ちる汗が、ときおり石の側面に黒いしみを作る。
 おれももう二十二だ。一生こんなことをやっているわけにはいかない。ミリカからも責められる。子どもに服も買ってやらなきゃならないし、一番上の子はもうすぐ学校に行く。
 だからどうすればいい? 自転車のスポークと空缶でカリンバを作る以外におれになにができる?
 日本人の女がやってきたら、聞いてみよう。ほかになにかほしいものはないか。カリンバ以外におれが作れそうなものはないか。おれにはほかになにができると思うか。
 おれもあの女のようにアフリカ中を飛びまわれたらいいのにな。
 パキン。パキン。パキン。

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